のろけ日記5回目
もはや注意書きは必要ないだろうが、「のろけ日記」はフィクションであり、ここに登場する彼女は脳内彼女であり架空の人物である。
では、以下本文である。
前日、彼女との電話にて、待ち合わせの場所および時間を定めた。
「午前10時、上野駅公園口」
ということになった。同時に、「遅刻した場合は昼食おごり」という条件もつけた。彼女は非常に時間に関する認識が甘く、しばしば約束の時間に遅れてくるので、そのことについて釘を刺す意味で僕は先の条件をつけたのだ。
さて、当日の9時半ごろ、僕は山手線に乗った。
このとき、車内のモニタにて目的地までの残り時間が表示されてるのを見て、僕は自分の計算が間違っていることに気付いた。これでは、公園口に到着するのには10分ほど遅れることになる。
僕は、遅刻する際にぎりぎりまで誤魔化そうとする彼女と違い、自分に非がある場合には正直にそれを打ち明けるという信念を持っているので、このときも彼女に「すまないが、5分ほど遅れるかもしれない」という旨のメールを彼女に送ろうとした。
ところが、携帯電話を取り出したところで、彼女からメールが届いた。
「ごめおくれる」
このメールの文面から、僕は少なくとも二つのことを読み取った。
すなわち、彼女は言語能力に支障をきたしていること、そして、彼女は僕に昼食をおごることを極端に恐れるほどに金がない、ということだ。
僕は、そのような彼女の精神状態を慮り、おそらく慌てているであろう彼女を、できるだけ落ち着かせてやろうとの気遣いから、
「で、何分遅れるの」
とのメールを送った。
「15分。本当にごめん」
との返事が来るまでに要した時間は主観時間にして4.03秒。最近のメールの通信速度はあなどれない。
さて、そのようなわけであるから、僕は、彼女がよほど昼食代を出したくないのであろうことへの確信を深めた。彼女があせって不慮の事故にでもあい、遺族から僕への損害賠償を求められるという最悪の事態を避けるため、
「遅刻は遅刻だから。昼食代、よろしくね」
とのメールを送った。
脊髄反射のごとき速さで「ほんとうにごめんなさい」とのメールが来たが、こういうときに毅然とした態度をとらねば彼女の遅刻癖は永遠に直らんだろうとの配慮から、
「俺は、10時には公園口にいるから」
とだけ送った。
さて、ちょうど10時になったとき、僕はまだ電車の中にいた。まもなく上野駅なので、目的地には先ほどの計算どおり10時10分までには到着するだろう。
そのとき、彼女から「もう着いてる?」とのメールが来た。
いちおう、僕は先ほどのメールと矛盾しないように「うん、もう着いてる。早くしろよ」と送ったところで、電車は上野駅に到着した。
どうせ彼女は10時15分にならなければ公園口にはこないだろうと高をくくっていたが、念のため僕は電車を降りたあとも小走りで目的地に向かった。
公園口の改札出口が見えてきた。出口の向こうには上野公園が見える。
改札を出た直後、背後から声をかけられた。
「ふーん、『うん、もう着いてる。早くしろよ』ですか」
振り返れば彼女がいた。
「貴様、15分遅れるんじゃなかったのか?謀ったな……」
との僕の問いに、彼女は
「遅刻は遅刻だから。昼食代、よろしくね」
と冷たく言い放つのだった。
では、以下本文である。
前日、彼女との電話にて、待ち合わせの場所および時間を定めた。
「午前10時、上野駅公園口」
ということになった。同時に、「遅刻した場合は昼食おごり」という条件もつけた。彼女は非常に時間に関する認識が甘く、しばしば約束の時間に遅れてくるので、そのことについて釘を刺す意味で僕は先の条件をつけたのだ。
さて、当日の9時半ごろ、僕は山手線に乗った。
このとき、車内のモニタにて目的地までの残り時間が表示されてるのを見て、僕は自分の計算が間違っていることに気付いた。これでは、公園口に到着するのには10分ほど遅れることになる。
僕は、遅刻する際にぎりぎりまで誤魔化そうとする彼女と違い、自分に非がある場合には正直にそれを打ち明けるという信念を持っているので、このときも彼女に「すまないが、5分ほど遅れるかもしれない」という旨のメールを彼女に送ろうとした。
ところが、携帯電話を取り出したところで、彼女からメールが届いた。
「ごめおくれる」
このメールの文面から、僕は少なくとも二つのことを読み取った。
すなわち、彼女は言語能力に支障をきたしていること、そして、彼女は僕に昼食をおごることを極端に恐れるほどに金がない、ということだ。
僕は、そのような彼女の精神状態を慮り、おそらく慌てているであろう彼女を、できるだけ落ち着かせてやろうとの気遣いから、
「で、何分遅れるの」
とのメールを送った。
「15分。本当にごめん」
との返事が来るまでに要した時間は主観時間にして4.03秒。最近のメールの通信速度はあなどれない。
さて、そのようなわけであるから、僕は、彼女がよほど昼食代を出したくないのであろうことへの確信を深めた。彼女があせって不慮の事故にでもあい、遺族から僕への損害賠償を求められるという最悪の事態を避けるため、
「遅刻は遅刻だから。昼食代、よろしくね」
とのメールを送った。
脊髄反射のごとき速さで「ほんとうにごめんなさい」とのメールが来たが、こういうときに毅然とした態度をとらねば彼女の遅刻癖は永遠に直らんだろうとの配慮から、
「俺は、10時には公園口にいるから」
とだけ送った。
さて、ちょうど10時になったとき、僕はまだ電車の中にいた。まもなく上野駅なので、目的地には先ほどの計算どおり10時10分までには到着するだろう。
そのとき、彼女から「もう着いてる?」とのメールが来た。
いちおう、僕は先ほどのメールと矛盾しないように「うん、もう着いてる。早くしろよ」と送ったところで、電車は上野駅に到着した。
どうせ彼女は10時15分にならなければ公園口にはこないだろうと高をくくっていたが、念のため僕は電車を降りたあとも小走りで目的地に向かった。
公園口の改札出口が見えてきた。出口の向こうには上野公園が見える。
改札を出た直後、背後から声をかけられた。
「ふーん、『うん、もう着いてる。早くしろよ』ですか」
振り返れば彼女がいた。
「貴様、15分遅れるんじゃなかったのか?謀ったな……」
との僕の問いに、彼女は
「遅刻は遅刻だから。昼食代、よろしくね」
と冷たく言い放つのだった。
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